第2回 インタビュー お医者さんに聞きました「前十字靱帯再建術とは」 史野根生先生 行岡病院 スポーツ整形外科 センター長 大阪行岡医療大学 教授 第1回 日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)会長

──前十字靱帯はどのような時に断裂するのでしょうか。

膝関節は半球状の大腿骨遠位部(顆部)と平坦な脛骨近位部(プラトー)とから構成されています。靱帯の断裂は、脛骨近位関節面(プラトー)上を、大腿骨遠位部(顆部)が後方に滑り、脛骨が前方へ脱臼することにより発生します。しかしながら、脱臼した関節は、脛骨近位部(プラトー)が平坦なために、直ちに整復され、前十字靱帯の断裂/損傷と診断されることになります。
前十字靱帯の断裂を来たしやすい体勢/姿勢があります。つまり、後傾姿勢です。身体が後方傾斜して足が接地していると、脛骨の後傾に伴い、近位関節面(プラトー)も地面に対する後傾角度が増大します。この場合、重力/Wにより、大腿骨遠位部(顆部)後方脱臼力/wpが生じます。このような状態の時に、膝を曲げないようにしつつ、身体が後ろに倒れないように大腿四頭筋を収縮させて踏ん張ると、大腿四頭筋牽引力/Fによる脛骨前方引き出す力/faが加わり、受傷のリスクが高くなります。 なお、尻もちをついて転倒してしまう場合は受傷のリスクは低くなります。

脛骨前方脱臼を引き起こし、前十字靱帯損傷を惹起する力=fa+wp

スポーツをしている場面に例えると、以下のような場面です。

  • 人にタックルされて上半身が後方に残り、後傾体勢になった時
  • 柔道で技をかけられて技から逃れようと踏ん張った時
  • スキーで後傾姿勢の時(前傾では受傷しない)
  • スキーで板がはずれなかった時
  • サッカー、フットボール、バスケットボールなどの切り返しやカット動作で、シューズが地面、床に引っ掛かって、全然滑ら無く、足底が接地面にロックしてしまった時。

もっと簡単に言えば、人に接触した際に、転びそうになって踏ん張った時に前十字靱帯を断裂することが多いとも言えます。

──性別、年齢、スポーツなどで受傷率は変わりますか。

例えば、バスケットボールの場合は、女性は男性より約4倍程リスクが高いです。年齢に関連するかはあまり分かっていません。ただ、若い方は年齢の高い方と比べるとスポーツをする機会が多いですし、アクティビティが高いので受傷率は高くなっています。
受傷しやすいスポーツの種類としては、女性ではバスケット、ハンドボール、器械体操、男性ではフットボール、ラグビー、柔道などのコンタクトスポーツが挙げられます。

──前十字靱帯が断裂した患者の方はどのような症状を訴えるのでしょうか。また、断裂した後も受診せずに症状を放置した場合は、どのようなリスクが考えられますか。

急性期の症状としては、抜けた感じや虚脱感などです。怪我をした直後は、膝関節が一度外れて戻ります。断裂した瞬間は痛みを感じますが、外れた膝関節が戻ってしまうとそんなに痛みを感じないケースがあります。ただ時間の経過と共に関節が徐々に腫れて来ます。関節内の出血は関節血腫となり、関節腫脹が起ります。血液というのは自己血であろうとも関節包に刺激となりますので痛みを感じますが、なんとか歩行できることが多いです。
なお、断裂後、さほど出血せず、腫れが徐々に治まり、医療機関を受診せずに放置される場合もあります。しかしながら、断裂した前十字靭帯は基本的には自然治癒しませんので、関節が不安定になります。歩行は大丈夫でも、思い切って踏ん張ったり、方向転換しようとしたり、ジャンプしようとすると、膝が「がくっ」と外れてまた戻るという 膝崩れ現象が起こります。それを繰り返すと半月板や関節表面の軟骨を損傷する可能性があります。半月板や軟骨が損傷すると変形性膝関節症に移行しやすくなります。

──受診するにあたり、医療機関の選定、医師の選定などアドバイスがありましたらお願いします。

一般的な整形外科では無く、整形外科にスポーツ・膝関節専門の医師がいる病院で受診されることをお勧めします。

──保存療法を選択された患者の皆さんが気をつけなければならない点がありましたら教えてください。また、手術の適応となる患者はどのような方ですか。

ごく稀なケースを除いて、損傷、断裂した前十字靭帯は自然治癒しません。一般の方が怪我をされた場合、日常生活/歩行や水泳などをするぐらいのレベルであれば、「靭帯が切れたままで、関節が緩くなっているので、激しいスポーツなどしないようにして生活してください。」と指導する保存療法を選択する場合があります。
一方、アスリートやスポーツへの復帰を目指す方の場合は、半月板に損傷がなかったとしても、手術/靭帯再建を行います。また、あまりスポーツをされない方でも、半月板損傷を併発している場合は、損傷半月板の転位を来たし、歩行などに支障を来たしますので、手術/靭帯再建+半月板手術を行います。 なお、近年、前十字靱帯靭帯再建術の進歩により、従来保存療法の適用とされたケースでも手術を行うケースが多くなっています。

──もし手術適応の患者の方が手術を受けない場合は、日常生活への支障など、どのようなリスクがありますでしょうか。

半月板を損傷するリスクが高くなります。半月板に損傷をきたした場合は、割れた半月板の一部が、膝の関節内で引っ掛かりやロッキングなどを起して歩行や日常生活に支障をきたすことがあります。それをずっと繰り返していくと、若年者の変形性関節症となってしまうわけです。(第3項、参照)

──日本で行われている関節鏡視下前十字靱帯再建術は、各国と比べるとどのような水準にあるのでしょうか。

我が国の水準は、欧米に比べて勝るとも劣らないと言えますが、医師間で技量のばらつきが大きいのも事実です。慎重に医師を選ばれることをお勧めします。

──関節鏡視下前十字靱帯再建術は低侵襲で行えることから、患者の皆さんからの関心は高まっています。前十字靱帯術を関節鏡で行うことのメリットはどのような点が上げられますか?また、もしデメリットがありましたら、教えてください。

一番のメリットは皮膚切開が小さいので、患者さんの負担が少なくなるという事です。手術を行う医師も関節鏡で見たい部位をピンポイントで拡大して見ることができますので、適切に使用すれば、大きく切開して手術するよりも正確な手術が可能になります。 
デメリットとしては、関節鏡視下手術は全国どこの病院でも一定の水準の手術を受けられるわけではないということです。私としては、関節鏡視下手術の設備が整っており、専門医がいる病院で治療されることをお勧めします。

──手術後の入院期間とリハビリ期間の目安を教えてください。

松葉杖を使用せずに独立歩行可能となるのに、3週間から5週間かかります。この間、入院して適切なリバビリを受けることが、勧められます。

──手術後のリハビリは特に重要だと思いますが、なぜ重要なのですか。リハビリを受けられている方が気をつけなければならいことがありましたら教えてください。

手術というのは一つの外傷のようなもので、低浸襲の関節鏡視下手術であっても多少の出血はします。術後に関節包と呼ばれる関節の袋が癒着し、関節可動域制限/関節拘縮が生じやすくなります。また、筋肉の萎縮も起こります。そんな落ち込んだ状態からのスポーツ復帰を目指す、リハビリが必要となります。考慮しなければいけないのは、再建靭帯として移植した腱に過度のストレスが掛からない様、移植腱の治癒過程に応じて、リハビリを施行していかなければなりません。つまり、少しずつ負荷を加えながら、運動強度を上げて行くことが大事です。関節拘縮予防、筋力強化、バランスのよい協調運動の再獲得を目指します。

──再受傷を気にされる方も多いと思います。何らかのケアすることで予防することはできますか。

再受傷は起こり得ます。復帰すると再受傷のリスクは避けられないのです。復帰しなければ、再受傷は生じません。
患者の方がするべきことは、最初にご説明したような危険な状況や姿勢の回避に努め、受傷リスクを減らすことです。 例えば、姿勢制御です。受傷しやすい姿勢にならないように体幹、股関節周囲筋などを鍛えることで、そのような姿勢になった時にすぐに安全な姿勢にもどし、危険な姿勢を回避します。また、先ほど例を挙げたように、スポーツシューズの引っ掛かり過ぎにも注意します。グラウンドや床のコンディションに応じた底面形状のものを使用するよう心がけます。私も趣味でテニスをしますが、コートサーフィスにより、シューズが引っ掛かり過ぎると感じる時があります。そのような時には、無理をしないように心がけます。このように、注意を払うと、リスクは減らせるでしょう。
また、サポーター/ブレース着用もよいでしょう。

──最後に一言お願いします。

関節鏡視下前十字靱帯再建術は大出血により死亡に至るような危険な手術ではありません。しかしながら、医師の技量により結果が大きく左右される手術でもあります。スポーツ復帰を希望される方は、しっかりとした信頼できる専門医を選んで、手術を受けることをお勧めします。