第3回 インタビュー お医者さんに聞きました「肩関節不安定症とは」 菅谷啓之先生 船橋整形外科病院 スポーツ医学センター 肩関節・肘関節外科部長

──肩関節不安定症とは。

肩の関節は肩甲骨・上腕骨・鎖骨の3つの骨から構成されています。その中でも上腕骨と肩甲骨は関節包とよばれる靭帯で繋がれています。具体的には、上腕骨頭とその受け側となる肩甲骨の関節窩といわれる部分を関節包はハンモックのように連結しており、洋梨状の形をした関節窩の周囲は関節唇という組織が関節包と繋がっています。このハンモックのような関節包という靭帯構造により、肩関節が大きな可動域を持つと同時に関節の安定性を保っています。
ラグビーや柔道などの激しいスポーツで、腕が生理的な可動域を超える方向に急激に持っていかれることにより肩関節が脱臼あるいは亜脱臼(外れてすぐ戻ること)を起こします。この際、上記の関節唇が関節窩から剥がれることにより、上記のハンモック構造が破綻し肩の安定性が損なわれることを肩関節不安定症とよびます。

──脱臼は癖になるとよく聞きますが、本当ですか?

上記のように、一度強い外力で肩関節が脱臼すると関節唇が関節窩から剥がれ、ハンモック状の関節包が引き伸ばされることにより肩関節が緩くなり、軽い外力が加わっただけで肩が脱臼してしまうことがあります。これを反復性肩関節脱臼といい、中には寝返りをうっただけで肩がはずれるなど、スポーツ活動だけでなく日常生活に支障が出ることもあります。またスポーツで強い外力が加わって脱臼した場合など、関節窩の骨折を伴っている場合も少なくありません。頻繁に肩がはずれ、不安定感でスポーツ活動に支障をきたしている場合には、専門医を受診する事をお勧めします。

──スポーツをした際に肩の痛みがでるのですが、しばらくすると痛みが取れます。受診した方がいいでしょうか?

日常生活上では痛みがないものの、スポーツ活動時のみ肩に痛みが出るのがスポーツ肩障害の特徴です。これは、肩の使い方などのフォームの異常によることが多いですが、根本的な原因として、肩甲帯や胸郭の可動性や股関節の可動域が落ちているなどの肩以外の部位の機能不全が原因となっていることがとても多いです。これらの機能不全には理学療法が不可欠ですので、専門医を受診し適切な理学療法を受けることをお勧めします。

──よく、肩を脱臼しますが痛みもなく、自分で治せます。

元々肩が緩い方によくみられる症状です。外れても自分で容易に整復できていて困らないなら特に医療機関を受診する必要はありません。ただし、スポーツ活動や日常生活に支障をきたしている場合は、専門医を受診した方が良いと思います。

──どのような治療方法がありますか。またどのような場合に手術が必要になりますか。

反復性肩関節脱臼のように何度も脱臼してしまう、あるいは脱臼はしないが脱臼不安感が強く、スポーツ活動あるいは日常生活に支障をきたしている場合が手術適応になります。手術は、関節鏡を用いて壊れた靭帯や骨を修復する方法が主流です。この場合、保存療法はほとんど効果が期待できません。関節窩の骨欠損が大きい場合やラグビーなどの激しいスポーツでは骨移植を行うこともありますが、最近ではこれらも関節鏡視下で行われるようになりつつあります。
野球やテニスなどのオーバーヘッドスポーツで肩の痛みがある場合は、先にも述べましたように、機能異常が原因になっていることが殆どですので、こちらは理学療法などの保存療法の効果が大きく期待できます。手術が必要になるのは全体の5%程度で、専門の施設で理学療法を行って機能不全が改善してもなお、痛みなどの症状が取れない場合のみが手術適応になります。

──どのような手術を行うのですか?

肩関節不安定症やスポーツ肩障害の手術は、現在では原則として関節鏡を用いて行います。5mmから1cm程度の小さな皮膚切開を数箇所つくり、細くて強い糸がついたアンカーと呼ばれる小さなビスを関節窩の縁に埋めこみ、その糸を剥がれた靭帯や関節唇にかけて縫い付けることで関節窩に固定します。最近では、骨の欠損が強く骨移植が必要な場合でも、治療技術の進歩により関節鏡手術で対応可能になってきました。

──入院期間はどのくらいですか?

入院期間は2~3日で手術翌日には退院となり、数日後にはデスクワークなら就労・就学可能です。

──手術をすればスポーツ復帰できますか?

術後は着脱可能で衣服の上からつける装具で3週間ほど腕を固定します。個人差がありますが、術後1~2ヶ月で日常生活には不自由がなくなり、3ヶ月で軽いスポーツ、6ヶ月で大抵のスポーツ復帰が可能となります。ただし、ハイレベルでのスポーツ活動で不自由を感じなくなるまでには、術後1年ぐらいを要します。手術で損傷を治すだけではなく、損傷を起こす原因を取り除く、肩への負担をかかりにくくするためのリハビリをしてバランスの取れた状態にする必要があります。

──トップアスリートやプロの選手などで、脱臼の手術をしたあと復帰している選手はいますか?

名前はあげられませんが、みなさんがよく知っている選手をたくさん手術してきています。殆どの選手が復帰して活躍しています。肩の痛みや不安定症があるからといってスポーツをあきらめることなく、専門医を受診して積極的に治療していきましょう。

──最後に一言お願いします。

肩関節鏡は1990年頃日本に導入され、2000年以降、急速に普及発展してきました。特に最近は、理学療法を含めた治療技術の進歩は目覚ましいものがあります。多くのスポーツ選手が恩恵を受けているだけでなく、今後多くのスポーツ愛好家や一般患者様にも福音となることでしょう。